中国 -100年遅れの帝国主義-

現代中国の本質と国際的影響を歴史的背景から読み解く、批判的視点の国際政治ブログ

高市早苗が何を言っても中国の台湾方針は"何も"変わらない──日本はついに“ことなかれ主義”を抜け出した

中国が日本に対して強硬なメッセージを連発している。
観光客の制限、留学生の停止、海産物輸入の全面停止、さらには軍系アカウントからの地獄絵図のような投稿まで、まるで対外プロパガンダの総動員だ。

だがまず最初に、最も重要な前提から書かなければならない。

高市早苗が踏み込んだ発言をしようがしまいが、中国の台湾統一方針は1ミリも変わらない。

これは中国政府が何十年も前から一貫して掲げている「国家戦略」であり、
外部の政治家の発言で揺らぐようなものではない。
台湾統一は中国共産党の“政権の正統性そのもの”に組み込まれている課題であり、
習近平になって急に強まった政策ではない。
どのトップでも同じ方針を取り続けてきた。

だから「日本が挑発したから中国が怒っている」という構図は、国際政治的に成立しない。

■変わったのは中国ではなく、日本の側だ

では、なぜ今回は中国がここまで過敏に反応しているのか。
その答えは簡単で、日本が長年の“ことなかれ主義”からついに抜け出し始めたからだ。

戦後日本は、日中関係に波風を立てないことを最優先してきた。
台湾問題には踏み込まない。
中国が嫌がる表現は避ける。
共同声明の行間を読みながら「曖昧さ」を外交戦略にしてきた。

しかし、安全保障環境が劇的に変化した。
中国の軍事力拡大、台湾への圧力、南西諸島周辺の活動増加。
もはや日本が曖昧なままでは、国民の安全すら守れない状況に近づいている。

ここで、高市早苗の発言が象徴的な意味を持つ。

彼女は「台湾有事は日本有事」であるという当たり前の地政学的事実を公的に語った。
これは挑発ではなく、むしろ長年言わなかったことの方が不自然だった。

日本はついに「現実を現実として口にするフェーズ」に移った。
その転換が、中国にとって最も都合が悪い。

■なぜ中国は過剰に反応しているのか

中国政府は、日本が本格的に安全保障の議論を始め、台湾支援の姿勢が明確になることを最も恐れている。
日本は地理的に台湾に最も近く、在日米軍基地の存在は中国の軍事計画に決定的な影響を与える。
日本の立場が曖昧でなくなるほど、中国の戦略は難しくなる。

つまり、中国が強硬な声明やプロパガンダを連発している理由は、

日本が変わりつつあることに神経を尖らせているから

これに尽きる。

■中国プロパガンダが“幼稚”に見える理由

今回の一連の反応のなかで、特に目立ったのが中国軍アカウントによる異様なイラストだ。
日本の女性政治家が、地獄の裂け目のような道を歩く姿を描いた絵で、背景には怪物のような影が迫っている。



日本人からすると、国家の公式がこんな漫画的な表現を出すのか?と驚く。

しかし、この幼稚さは中国国内の政治文化ではむしろ“王道”だ。

中国では長年、教育・メディア・ネットを通じた反日感情の強化が続いており、敵国を悪魔化したビジュアル表現は受け入れられやすい。
国家批判ができない社会では、こうしたプロパガンダに違和感を示す声も表に出てこない。
国際的にどう見えるかより、国内統治の効果が優先される。

だから、日本人が幼稚に見えると感じるのは正常で、中国が異常なだけだ。

■外交現場の写真が象徴した“日中の非対称”

今回話題になった、

外務省局長と中国側局長が対面している写真

この一枚も、現在の日中関係を象徴する場面として炎上した。

写真では、

  • 中国側は胸を反らせ、両手をポケットに入れ、
    “上から目線”のような態度

  • 日本側の表情は硬く、通訳に顔を寄せているため、
    頭を下げているようにも見える

この“態度の非対称性”が、日本のSNSで大きな批判を呼んだ。

だが実際の外交内容としては、日本はきっちり主張している。

見た目ではなく、中身の方で日本は一歩も引いていない。

中国側の胸を張った態度は「大国演出」のプロパガンダ用で、
現場の中身とは関係がない。

むしろこの写真は、

日本が本音を語り始め、中国が態度で誇示するしかなくなっている

という“外交構造の変化”を象徴している。

■中国の報復はどこまで行くのか

中国の反応の激しさに比例して、
日本でも「この後どこまでエスカレートするのか」という不安が語られている。
しかし、中国が切れるカードは“階層構造”になっていて、
どれにも明確な限界がある。

その順番にそって理解すると、「怖さの実態」が見えてくる。

① すでに切った“低コスト”のカード

まず、中国が最初に使うのは、
いちばん簡単に出せて自国にダメージがない制裁である。

代表的なのは以下のものだ。

  • 海産物輸入の全面停止

  • 観光客の停止

  • 留学生の制限

  • 外交官の強い声明

  • SNS・軍系アカウントでの心理戦

だがここに、皮肉にも 大きな落とし穴 がある。

特に「観光客・留学生の制限」は、中国側が“日本に打撃を与えたつもり”で実施しているのだが、
多くの日本人からすると、実はこれ…

「え、むしろ助かるんだが?」

という側面が強い。

コロナ明けの観光地の混雑、マナー問題、
土地・不動産の爆買い騒動、
都市部での観光公害(オーバーツーリズム)。

それらの一部を引き起こしていたのは、
確実に中国人観光客の大量流入だった。

つまり中国が本気で「痛いところを突いた」と思って実施した報復が、
日本では案外、

  • 観光地「むしろ平和になって良い」

  • 地元住民「静かになって助かる」

  • 教育機関「問題の多い留学生の割合が減るのでは」

など、皮肉にもプラス効果として受け止められてしまっている。

これほど「効いていない制裁」も珍しい。

中国の“低コストの報復カード”には、
「日本側にとってマイナスにならない」という致命的な弱点がある。

だから中国は次のカードへ進むしかない。

② 次に来る“中コスト”のカード(ここから中国も痛い)

ここから先は、中国自身にも確実にダメージが出る。
それでも、中国が「怒っている姿勢を維持したい」場合、
使わざるを得ないカードがいくつかある。

● 日本企業への“行政嫌がらせ”強化

これは中国が最も使いやすいカードだ。
税務調査、立入検査、消防・環境関連の指導など、
法律を口実にいくらでも「痛めつけ」られる。

ただし問題もある。

日本企業が本気で撤退を始めると、
雇用・税収・技術移転の損失という“巨大ブーメラン”が中国に返ってくる。

中国経済はすでに外国資本の流出で苦しんでいるため、
このカードは乱発できない。

非関税障壁(通関遅延・手続きの不自然な厳格化)

関税は変えなくても、書類のチェックを増やし、
手続きに時間をかけるだけで企業活動は大きく滞る。

これは静かに効く嫌がらせで、実施される可能性が非常に高い。

レアアースの“一部規制”

2010年に日本へ行った“伝説の制裁”だが、
あれは中国自身が世界から批判され、
結果として「代替供給源の開拓」を進めさせ、
むしろ中国のシェアを削った失敗例にもなっている。

したがって再び全面規制とはいかない。
やるなら「小出しの限定規制」だけ。

サイバー攻撃の増加

これは最も現実的なリスクだ。
大規模な攻撃は国際問題になりすぎるので、

  • 政府系サイト

  • インフラ

  • 金融
    に対し小さな攻撃を連発する“嫌がらせ型”が増える可能性が高い。

●軍事演習による威圧

宮古海峡、台湾周辺、尖閣周辺での“包囲演習”。
これは現にこれまで何度も実施されており、
「本格的な戦争には踏み込まないが、緊張を高める」という形で行われる。

中国にとっては国際的な批判が増えるリスクもあるが、
“軍事で怒っている姿勢”を示すには手軽な手段だ。

③ 絶対に実行できない“高コスト”のカード

ここからは“脅しのために言うだけ”の領域に入る。
中国が本当に実行してしまうと、自国に壊滅的ダメージが返ってくるため、
実施はゼロに近い。

この領域を理解すると、
「中国の怒りの限界」がはっきり見えてくる。

● 在中日本人の大規模拘束

もしこれをやれば、世界中の企業・政府が“中国リスクは制御不能”と判断し、
外資は一斉に撤退する。
中国経済は完全に崩壊する。

ウイグル・香港では弾圧を実行したが、
G7国の国民を“政治カードとして拘束する”という行為は、中国にとっても自殺行為である。

だから、絶対にやれない。

● 貿易の全面停止

こちらも不可能。
日本は中国の最大級の貿易相手であり、
中国は日本の精密機器・化学素材・半導体製造装置なしでは産業が回らない。

中国経済の心臓部分は
「日本の部品」+「中国での組立」
という構造で成立している。

貿易を止めるなど、
自分の心臓を止めるようなものだ。

●③ 実戦的な軍事衝突

これも絶望的に無理。

中国が日本に軍事行動を起こした瞬間、
日米安保が発動し、アメリカ軍が参戦する。
その結果は政権の崩壊につながる。

中国は威嚇はうまいが、
「実戦での衝突」は最も避けたいシナリオなのだ。

中国は本気で怒っている。しかし“怒るだけで何もできない”という構造が露呈している

中国は高市早苗の発言に「怒ったふり」をしているわけではない。
確かに、中国は本気で苛立っているし、国家戦略の邪魔が入ることを明確に嫌がっている。

だが重要なのは、
怒っているからといって、実際に効果的な行動が取れるとは限らない
という現実だ。

今回の連続する対日措置──
海産物輸入停止、観光客・留学生の制限、過激なプロパガンダSNSでの威圧──
これらは確かに中国が「怒っているサイン」ではある。
だが同時に、
中国が使えるカードがあまりに限られていることを示す証拠でもある。

もし本当に日本に痛打を与えられるなら、とっくにやっている。
しかし、貿易停止も、日本企業の本格締め付けも、軍事衝突も、
どれも中国自身に致命傷が返ってくるため踏み込めない。

つまり、中国は怒ってはいる。
しかし、その怒りの行動は「低コストの演出」に留まらざるを得ない。
高市早苗の発言で中国の台湾戦略が揺らぐことはなく、
日本が事実を語り始めたことだけが、中国にとって最大の障害なのだ。

そして今、日本は長年のことなかれ主義から脱却し、
安全保障の現実をようやく公然と語る段階へ移行した。
中国の圧力に屈しない“現実路線”こそ、
最も効き、中国が最も嫌がる日本の姿勢である。

日本が恐れる必要はない。
むしろ、ここで腰を引かず、
淡々と事実を語り、やるべきことをやる──
それこそが中国に対する最大の抑止であり、最強の反撃になる。